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小泉武栄『山の自然学』 [書評]

東京学芸大学名誉教授の小泉先生が1998年に著された岩波新書の『山の自然学』を読む。礼文島から屋久島まで、日本列島を連なる個性的であり、多様な山々の植生、地質、地形などを分かりやすく解説してくれている。私はへたれであるが登山をするので、この本に書いていることはとても興味深い。山を登ると、たまに驚くことがある。例えば、鳥取県の大山ではそのブナ林の明るさに心を打たれたことがある。その明るさの背景などをこの本は科学的に推察し、解説してくれる。自然の仕組みの複雑さと蓋然性に、驚くと同時に、生態系をしっかりと学ぶことの重要性を思い知らされる。
 本を読むと、これまでの山での体験が違う視点で捉え直すことができ、とても興味深いし、まだ行ったことのない山は是非とも近いうちにチャレンジしたいという気持ちにさせる。登山体験の幅を広げるような内容に溢れた本である。
 また、山の自然学の解説以外にも本書は重要な知見をもたらしてくれる。一つ目は、政府の無知による自然破壊の酷さである。引用させてもらう。
「上高地の自然をめぐっては、現状を維持しようとする環境庁と、洪水防止のために川を床固めし、堤防をつくりたいとする建設省のあいだで、長年にわたって“つばぜりあい”がおこなわれてきたが、結局、工事は行われることになってしまった。わたしの友人の岩田修二は『山とつきあう』のなかで、床固め工事に反対を表明し、ケショウヤナギなどの森林にとっては土木工事は害をなすばかりだとして、洪水に対してはホテルなどの嵩上げで対処すべきだと主張しているが、まったく同感である。」(p.167)
 二つ目は、日本において自然史についてのカリキュラムがまったく抜け落ちているとの指摘である。私事で恐縮だが、私は小学校4年生から中学校1年生までアメリカの現地校で教育を受けたので、いわゆる算数などの授業はとてもレベルが低い内容のものを教わっていたが、自然史というかエコロジーの授業は小学校高学年で受けていた。そういうこともあって、著書の考えがしっくりと入ってくるというのはあるかもしれない。
 二つの点は、今後、日本が改善しなくてはならない大きな政策的課題であろう。


山の自然学 (岩波新書)

山の自然学 (岩波新書)

  • 作者: 小泉 武栄
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1998/01/20
  • メディア: 新書



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