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王寺町の「嘘からまこと」のラーメンで街づくり [都市デザイン]

奈良県に王寺町という自治体がある。ここは、大阪のベッドタウンで大和川沿いの谷を中心に発展した来た町である。面積は7キロ平米と随分小さい自治体だが、山がちであるために可住地面積は4キロ平米とさらに小さい。その結果、人口は24000人ぐらいだが人口密度が高く、また工業用地がないため第三次産業の従業者が91%を占める。都市構造的には勝手にコンパクト・シティである。鉄道とともに発展してきた町ということもあり、政策としては駅のブランド化を意識していて、駅周辺にマンションを建てていきたいと考えているそうだ。ううむ、コンパクト・シティは面的だけでなくても高さ面でもコンパクトがいいと考えている私としては、ここらへんは中央政府から本家のEUのコンパクト・シティと違った方向に進んでいるな、と懸念していた私だが、ここ王寺町も面的にはともかく高さ的には全くコンパクトではない都市づくりを目指しているようだ。

歴史はあるが、その町の歴史が現在の町へと上手い具合に繋がっておらず、山を切り開いてつくられたニュータウン的色彩が強い町である。さて、そのような町であるから、町としてのアイデンティティは弱く、人々の愛着は薄いし、知名度も低い。そのような課題を克服するために王寺町が取り組んだのはゆるキャラによる街づくり、そして次いでラーメンによる街づくりである。ゆるキャラは雪丸という犬で、聖徳太子の飼い犬という設定である。これは王寺町の名前が聖徳太子が建立した放光寺に由来しているからだそうだ。この雪丸は、王寺町のアイデンティティの欠如を埋めるように人気を博し、昨年度のゆるキャラ・グランプリでも11位になっている。王寺町を知らなくても雪丸を知っている人が増えている。さらに、雪丸のドローンを博報堂に委託して100万円でつくったりするなど、話題づくりも上手い。税金を使って100万円というのもどうかな、と思うがその広告効果を考えると100万円の効果は余裕であるだろう。王寺町を知らなくても雪丸を知っている人は増えている。雪丸をフックとして、観光客が増えることも期待しているそうだ。確かに雪丸が好きな人は放光寺に観光というパターンはできるかもしれない。私も聖徳太子に飼い犬がいたことや、聖徳太子が王寺と関係しているなどは王寺町を調べなければ知ることはなかった。

さて、ゆるキャラはともかく、それではなぜラーメンなのか。これは王寺町役場が町民に何が町に欲しいかのアンケートを行ったら、一番がラーメン屋であったことが大きな理由である。ちなみに二番はカフェであった。王寺町は関西本線が走っており、近畿鉄道の駅もあるので公共交通の便がよいため小売業は集積しているのだが、いかんせんフランチャイズ店が多い。これは町民にとっては必ずしも悪いことではないが、外から王寺町に来たくなるような発信力のあるお店ではまったくない。そこで、ラーメンをゆるキャラに次ぐ、地域ブランディングのツールとして考えることにしたのである。しかし、王寺町にはラーメンというコンテンツはない。ないから町民がアンケートで欲しいと回答したのである。いや、正確にはない訳ではない。「名物王寺ラーメン」という比較的、ラーメン通には知られていたスタミナ系ラーメンのお店が駅の北側にあったことはあった。しかし、ほぼ個店はここだけである。ということで、ラーメンの町というイメージは王寺町にはほとんどなかった。なんか、敢えて例えると、サッカーの日本代表の補欠になった選手が一人いただけで、サッカーで街づくりをしよう、みたいな無理無理感がある試みである。

さて、しかし、これが驚くことに上手くいく。それでは王寺町は何をしたのか。王寺町では2018年3月11日から7月31日にかけて、王寺ラーメントライアルというイベントを行った。これは、王寺でラーメン店の開店を目指す店主が、長年空き店舗であった王寺駅北口にあった居酒屋を改修した店で、期間限定でラーメン店の営業に挑戦するという企画である。
これには4店がチャレンジするという構想であったが、最初の1店は1日のみで、これは広告塔のような効果で有名店が開店したというものであった。その後は、Namaiki Noodle、麺屋やまひでの2店が出ただけで、結果的にNamaiki Noodleが優勝。その後、この店が会場であった空き店舗で2018年10月からラーメン屋を開業する。このお店は鶏白湯のスープの細麺で、個人的には奈良ラーメンのイメージに沿ったラーメンである。店主は奈良の鶏白湯ラーメンで有名な麺屋NOROMAで修行をしていたそうだ。このラーメンイベントは、2018年12月に県政策自慢大賞に輝く、という名誉を受ける。まあ、政策を自慢するという時点で公務員の仕事への意識に問題を感じない訳ではないし、表層的で短期的な視点の政策ばかりに公務員の関心がシフトしそうで心配ではあるが、王寺町にとってはこれは追い風となった。

そして、次に仕掛けたのが関西ドリームマッチという人気のラーメンイベントで、その第三回目を王寺町で誘致したのである。そして、まさに先週末の四日間(2019年2月8日〜11日)に開催した。このドリームマッチのどこがドリームかというと、関西の錚々たるラーメン店がコラボをするところが、ドリームだそうである。まあ、敢えてコラボするぐらいなら、そのレシピでつくれよ、という気もするが、ラーメンオタクにはなかなか嬉しい企画だそうである。このようにラーメンでまちづくりを仕掛けて1年、まともな個店のラーメンが一店舗しかなかった王寺町でなんと大規模なラーメンイベントが開催。その宣伝効果はとてつもなく大きなものがあったと推測される。

このようにして、特産品もほとんどなく、観光資源が少ない王寺町は「嘘から出た誠」のようなブランド戦略で、知名度を上げていったのである。これが成功した要因の一つとして、やはりラーメンをコンテンツにしたことはあったかと思う。なぜなら、まずラーメンは歴史が浅いので老舗といってもたかが知れている。まだ、発展途上の食べ物である。そして、応用が効く。例えば豚骨ラーメンは、スープをつくっている時、店主がうたた寝をして煮込みすぎたことで発見されたし、味噌ラーメンは札幌のお店で味噌汁にラーメン入れてよ、という無茶ぶりからつくられた。そのように考えると、まだまだその可能性は広がる。そして、少ない資産で勝負でき、それに勝てば実入りも大きいギャンブル性の高いビジネスであるので、男のロマンを駆り立てやすい。そこには、また学歴社会的なものが入ってくる余裕もない、実力主義的なところが、日本人の武士道にも通じる何か魅力を放っているような気もする。ここらへんは仮説ではあるが、ラーメンというコンテンツの魅力と、即興で地域ブランドをつくれてしまうという事実を王寺町で知ることができた。くまモンの熊本県ほどではないが、なかなか上手くやった(税金を無駄遣いにしなかった)自治体による地域ブランド創造政策ではないかと思う。

人口が縮小していく中、コミュニティを強化させるうえでは、その地域のアイデンティティを強化させていくことは極めて重要である。その強化において、ゆるキャラ、ラーメンといったコンテンツを使うことは、意外と有用なのかもしれないな、ということを考えさせられた。もちろん、ダメダメなゆるキャラを取りあえず、つくっていたり、税金を浪費してゆるキャラ・グランプリのナンバーワンを金で買う(静岡県のH市のことですね)ようなことはあってはならないとは思うが。

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(ナマイキラーメン)

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(ラーメントライアルの会場となった居酒屋。今はナマイキラーメンのお店になっている)
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